はじめに

原爆ドーム裁判の提訴に当たって

世界遺産・原爆ドームを守る会 代表 金子 哲夫

 かき船が世界遺産原爆ドームバッファ―ゾーン内への移設計画が明らかになって以降、この計画の撤回、再検討を求めて、広島市、国土交通省中国地方整備局、太田川河川事務所、かき船かなわに対して、様々な要請を行ってきました。
 しかし、いずれもこうした声にこたえることなく、計画が推進されていますので、引き続いての運動を強化するとともに、司法での判断を求めて、今日中国地方整備局がかき船かなわに対して昨年12月12日に出した「占用使用許可」の取り消しを求めて、提訴しました。

 その最大の理由は、あの場所は、ある意味では最も多くの市民が、原爆の犠牲になった場所だからです。そこに一民間業者の飲食店が、設置されることは、とても容認できるものではありません。

 そして日本イコモス国内委員会が、本年1月29日に出された「世界遺産原爆ドームバッファゾーン内における牡蠣船移動設置への懸念表明」でも明らかになっている通り、原爆ドームは、「人類の悲惨な歴史を語り継ぎ、平和を祈念する場」として、世界遺産に登録された特別な性格を持つ人類共通の遺産」であり、またバッファゾーンは、「単に資産周辺の景観を規制し整えるだけでなく、この資産の持つ鎮魂と平和への祈念の意味との深いつながりを持つエリア」であり、かき船の移設によってその理念が損なわれ、ひいては危機遺産へと進むことを危惧するからです。

 原爆ドームは、永久保存工事時には、市民、国民の浄財によってすすめられました。また世界遺産登録に当たっては、165万を超える署名が、国会を動かし、世界遺産登録を実現させました。市民一人ひとりの共有の財産と言えます。そしてそれを保全し、未来の人たちに伝えるのは、国や広島市の責務です。行政のみが、勝手な判断によって、一民間企業の営業を認めることがあってはなりません。

 しかも、この計画が市民に明らかになって以来、先に述べた日本イコモス国内委員会のみならず、地元町内会、住民はもとより、被爆者団体、弁護士会などからも「反対」や「再検討」を求める要望が出されました。しかし、国も広島市もそうした声や要望に一切耳を傾けることなく、計画を強行していることを、私たちは、絶対に認められるものではありません。

 そのことは、今回の原告団が、そうした多くの立場から構成されていることからも明らかです。その実現を見たのです。

 私たちは、こうした裁判で争うことを最初から求めたわけではありません。本来ならば、国や広島市が、私たちの声を真摯に受け止め、計画の見直し、中止を行えば、こうした事態にはならなかったわけです。

 私たちは、今回の提訴によって、司法での判断を求めますが、かき船の移転計画が撤回されるまで、これまで続けてきた活動を継続する決意です。